チャールズ3世の戴冠式

2023年のイギリスを語る時に欠かせないチャールズ3世の戴冠式の開催まであと5日に迫った。今回はチャールズ新国王の戴冠式の特徴や戴冠式まで1週間となった現在のイギリスの様子や人々の反応についてレポートさせていただきたい。(本記事は、女性起業家と個人事業主のコミュニティCo-creation様に執筆させて頂いたものです)

・戴冠式(コロネーション)とは

昨年9月、イギリスの君主として70年間在位したエリザベス女王の崩御に伴って女王の長男チャールズ皇太子が「チャールズ3世」として新国王に即位した。エリザベス女王の崩御を受けて、王位は即座にそして自動的にチャールズ皇太子に継承されたのだが、イギリス王室には新国王に冠を授ける式典「戴冠式」を執り行うことで公式に君主が即位したことを宣明する伝統がある。イギリス王室の戴冠式は王位継承でも最も象徴的な意味を持つ国家行事で、900年間続いている。

戴冠式は国王になってすぐに行われるわけではなく、過去の戴冠式を振り返ると概ね前国王・女王の死去から1年ほど経ってから行われてきた。エリザベス女王の戴冠式にいたっては即位から16カ月も経ってからだった。今回も戴冠式の時期についてメディアでは憶測が飛び交っていたが、喪に服す期間が終わってからも亡きエリザベス女王へ敬意を示して一定の時間を置きながらも、すでに74歳という高齢で戴冠する新国王の年齢を考慮して年内に行われることになった。ということで、2023年の5月6日にロンドンのウェストミンスター寺院で行われる。

・コロネーション・ウィークエンド

戴冠式(コロネーション)が行われる5月6日の週末はイギリスでは「コロネーション・ウィークエンド」と位置付けられ5月8日は臨時で祝日になった。チャールズ国王とカミラ王妃は5月6日の朝10時半にバッキンガム宮殿を出発し、「王の行列」と呼ばれるパレードでウェストミンスター寺院に到着、現地時間の午前11時から戴冠式が行われる予定だ。

イギリスの国王になるということはつまりオーストラリアやカナダを含むイギリス連邦(コモンウェルス)に加盟する56ヶ国の長になること。戴冠式の様子は世界中の国々で放映され何百万人もの人々に視聴されるだろう。

コロネーション・ウィークエンドには戴冠式だけではく、戴冠式コンサートや地域のボランティアを奨励する「The Big Help Out」と呼ばれるイベントなど様々な催し物が開催される。戴冠式やパレード、コンサートの様子をテレビで見るだけでなく、全国津々浦々で家の前にテーブルと椅子を出して近隣の人たちや友人と料理やお菓子を持ち寄って集まり一緒に食事を楽しみながらロイヤルファミリーをお祝いするイベント「ビッグランチ」も行われる。

・伝統溢れる戴冠式

Netflixオリジナルシリーズ「ザ・クラウン」を視聴した人なら英国王室の戴冠式のイメージが沸くだろうが、なにせ最後に戴冠式が行われたのはエリザベス女王の戴冠式が行われた70年前。イギリスにいても70歳以下の人にとって戴冠式は人生で初めての出来事だ。

戴冠式はイギリス国教会による宗教儀式。まずチャールズ国王が「戴冠式の宣誓」を行い、法と正義に従って判断を下し英国国教会を守ることを約束する。次に国王が「エドワード王の椅子」と呼ばれる戴冠式の椅子に座ると(「エドワード王の椅子」は1272~1307年の間在位したエドワード1世の時代の椅子で歴代の大半の君主が戴冠式の椅子として使用してきた)、イギリス国教会の大主教であるカンタベリー大主教によって新国王の頭に聖油が注がれ、国王の権力と正義を象徴である「王笏(おうしゃく)」と「宝珠」を贈られる。最後に、カンタベリー大司教大主教の手で国王に王冠をかぶせられるという流れだ。

・チャールズ新国王“スリム化”

チャールズ国王の戴冠式ではイギリス王室の伝統を大切にしながらも儀式は「ショート・スリム(短く小規模)」に行うと発表されている。今回の戴冠式では儀式的な要素は省略されて開催時間は従来の4時間から1時間に短縮される。1953年に行われたエリザベス女王の戴冠式には8,000人が出席したが今回招待客は2,000人。戴冠式への行きと帰りの「行進」の距離もエリザベス女王の時には8キロメートルに及ぶパレードが行われたが、今回は2.1キロメートルとかなり短縮された。

イギリスでは去年から10%を超えるインフレ率で国民は未曾有の生活費高騰に苦しんでいる厳しい現実がある。戴冠式の費用はイギリス政府が負担するのだから、せめて経費節減で臨まないと国民が黙っていないだろう。

・イギリス国民の反応

戴冠式を翌週末に控えているとはいえ、今のところまだイギリスに住む人たちの戴冠式への関心や注目度がとりわけ高いとは言い難い。戴冠式の翌週の月曜日が臨時祝日になったので3連休をどう過ごそうかという話は出るのだが……。ただ、買い物に行くと戴冠式を記念した記念グッズやお菓子、紅茶などの戴冠式を記念したグッズか販売されているし、日程が近づくにつれ街の通りでも飾りつけを目にする機会が増えるだろう。

戴冠式まで1週間に迫った現在受ける印象でいうと、去年の6月に行われたエリザベス女王の即位70周年を祝う「プラチナ・ジュビリー」の時と比べると、街の飾りつけは少ないし盛り上がりは今一つといえる。

・王室支持58%

今年に入って行われた調査では「王室を支持する」と答えた人は国民の58%だった(BBC調べ)。10年前の2013年に調査が行われた時は「王室支持75%」だったのと比較すると国民の王室離れが顕著に見て取れる。特に18歳から24歳までの若者にいたっては王室支持者が32%、2013年の同年齢層の王室支持は64%だったので(YouGov調べ)、過去10年間で若者の王室離れが目立つ。

一方でチャールズ国王は皇太子時代に「プリンス・トラスト(皇太子信託基金)」という慈善事業を設立して100万人もの経済的・環境的に恵まれない若者の支援を続けてきた実績があり、「チャールズ皇太子(当時)のおかげで人生が変わった」と語る若者も後を絶たない。チャールズ新国王がとりわけ若者に人気がないというよりは「イギリス王室に国民の税金を使うだけの価値があるのか」といった現実的な見方をする人が増えているのだろう。

戴冠式の日、戴冠式放送の裏番組では、故エリザベス女王の次男で新国王の弟であるアンドルー王子のスキャンダルを解明するドキュメンタリー番組が放送されることが発表されている。戴冠式の日に王室をとりまくスキャンダルを掘り下げる裏番組が放映されるのは、今のイギリス国民のロイヤルファミリーへの相反する感情を象徴している。

・止まらないゴシップ

イギリスのロイヤルファミリーのメンバーは「公の立場とはいえここまで私生活に踏み込まれるのか」と驚くほど私生活に踏み込んで報道される。イギリスのタブロイド紙の標的なのだが、イギリス王室側としても良きにしろ悪きにしろゴシップのおかげで国民の関心を引き付けている側面があるので致し方ない部分もあるのだろう。とにかく戴冠式を前に控えている今も次から次へとゴシップが後をたたない。

一番の関心の的がチャールズ新国王の二男ヘンリー王子。妻メーガン妃と子どもたちは戴冠式に欠席する。戴冠式の日がヘンリー王子とメーガン妃の長男アーチー王子の誕生日と重なるためヘンリー王子以外の家族はカリフォルニアに留まり、ヘンリー王子は式典のみに出席してカリフォルニアにトンボ返りするのだが、これに関しても色々物議を醸しだしている。

また離婚歴があるカミラ王妃の元夫アンドリュー・パーカー・ボウルズ氏も戴冠式に招待されたことや、チャールズ3世が国王に即位するとカミラ夫人は王妃となるが、元夫の間にいるカミラ王妃の二人の子とも達の身分はどうなるのか(結論としてカミラ妃の子どもの身分に変化なし、称号や警備も与えられない)といったように、戴冠式の前でもロイヤルファミリーのゴシップには事欠かない。

・歴史を振り返る機会

母としてのエリザベス女王と幼少期や皇太子時代のチャールズ新国王は「強い母と期待はずれな息子」というイメージが強かった。その境遇がヴィクトリア女王の長男のエドワード7世と似かよっているとして二人はよく比較されていた。イギリスが世界各地を植民地化して大英帝国を築き上げた時代に君臨したヴィクトリア女王だが、その在位が長期にわたったために長男のエドワード7世もチャールズ新国王に次いで長い間皇太子の立場にあった点も共通だ。ヴィクトリア女王がエドワード7世のことを「不出来で不能、王位継承者として不適切では」と嘆き心配していた点も、亡きエリザベス女王のチャールズ新国王への思いと重なっていたという。

とはいえイギリスきっての愚王となると心配されていたエドワード7世は即位後、外交問題を中心に有能さを見せしめた。それと同じで、皇太子時代に気候変動や環境保護などの慈善活動に誰よりも長く熱心に取り組んだチャールズ新国王も、権力を発揮できる立場に立つことで今までは発揮できずにいた才能が花開くかもしれないといった見方もされている。

このように、約1000年にわたるイギリス王室戴冠式はイギリスの歴史を振り返るよい機会にもなっている。王室を支持するか否かは置いておいて、一世一代とも言われる戴冠式の伝統を垣間見られる機会を満喫したい。

参考記事;エリザベス女王の崩御

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